ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文へ (c)

公式ブログ “Como esta! BIO PARK”

このエントリーをはてなブックマークに追加

ファーブル伊藤の生き物日記「冬に動き出す生き物」

kasumi-osu1.JPG
 毎年、1月になると、長崎バイオパークの園内である生き物が産卵します。上の写真がその生き物ですが、何かお分かりですか?大きさは12cmくらいなので、ボールペンの長さくらいでしょうか。イモリではありません。答えはサンショウウオのなかまのカスミサンショウウオです。
 私は高校生の頃、生物部でハコネサンショウウオの研究をしていましたので、このような小型サンショウウオが大好きです。長崎バイオパークの飼育係になってうれしかったことのひとつとして園内にサンショウウオが生活していることでした。そして33年間、毎年この産卵場所に今年も繁殖行動をしているかを観察し続けてきました。
 今年は1月13~15日にかけて少し暖かい雨が降りました。メスはこの雨をきっかけとして産卵場所に移動します。オスはというとその産卵場所で12月頃からメスを待っています。今回、その産卵場所を網で2~3回掬ってみました。すると18匹もの成体が取れました。18匹はすべてオスでした。(このオスたちは写真撮影後すぐにいた場所に放しました。)
このように長崎バイオパークにはあまり目に付かないけれども多くの野生生物の営みが見られます。
kasumi-osu18.JPG
 下の写真がそのサンショウウオの卵です。小さな卵がたくさん入っているバナナ状の袋を卵のうと言います。その卵のうは1匹のメスが1対を産みます。その卵のうの中には合わせて100~200個もの卵が入っています。写真の卵のうは左右違う日に違うメスが産んだもので、発生段階が違っています。少し分かりにくいかもしれませんが、左の卵のうの卵はだるま型で右はそれよりも発生が早く、魚の型に近くなっています。kasumi-egg2.JPG
 卵のうは普通、水中にある石や枯れ枝などにくっ付けて産みますが、下の写真のように水中にある人工物にも産むことがあります。これは発泡スチロールの箱が産卵場所に落ちており、その底に2対の卵のうが付着していました。そこは人目に触れないところですので、ナイスアイデアですね。でも産卵場所はゴミなどがないようにしておきたいところです。
kasumi-egg.JPG
 カスミサンショウウオの産卵シーズンは3月頃までなので、オスたちはそれまでメスを待って繁殖活動を行ないます。その後は涼しく湿度の高い、林内に戻り次の産卵シーズンに備えます。佐賀県では外来種の野生のアライグマによって産卵期に集まるサンショウウオたちが食害を受けているという報告を聞きます。なんと硬くておいしくない尾を残して食べてしまうのです。産卵期以外は単独で生活しているサンショウウオたちを見ることはほとんどありませんが、産卵期は集団になりますので、今後、長崎県内でも野生のアライグマが増えると同様なことが起きるおそれがあります。
kasumi-egg-osu.JPG
 卵から孵化した幼生は6月頃までには上陸して陸上生活を行ないます。その後、成体になって、この産卵場所に戻るのが、数年先になります。少しでも多くの個体がまたこの産卵場所に戻ってきて欲しいものです。今年上陸した子供たちが成体になって、初めてこの産卵場所に戻ってくる年に観察している私は赤い防寒着を着ているかもしれません。